むかしむかし、女神湖(めがみこ)の近くの道ばたに『かぎっ引き石』という大きな石がありました。
その石の上には、いつも一匹のカッパがちょこんと腰かけていて、道を通る人がいると、
「かぎっ引きしねえか?」
と、呼びとめるのです。
かぎっ引きというのは、お互いの小指をかぎみたいに曲げて、引っぱり合いをする力くらべです。
カッパはこのかぎっ引きが大好きで、誰かれかまわず誘ったのです。
そして長い旅をしてきた者は、たいていはたいくつしのぎに、この誘いにのったのです。
ところがカッパの力は大変なもので、小指をからめたとたんに負けてしまうのです。
そして負けてしまうと有り金を全部取られたり、肝を抜かれたりするのです。
このかぎっ引きカッパの噂は、山を越えた諏訪(すわ)の方にまで伝わり、この話を聞いた諏訪の殿さまが、
「旅の者を苦しめるとは悪い奴め、ひとつわしがこらしめてやろう」
と、さっそく馬を出しました。
さて、カッパは殿さまがやってくると待ってましたとばかりに、すぐに声をかけました。
「これは殿さま、ひとつ私とかぎっ引きをいたしませんか?」
それを聞いた殿さまは、ニタリと笑うと、
「よしよし、では始めよう」
と、いうが早いか、馬の上からカッパの腕をしっかりとつかんで、そのまま馬にムチをいれしました。
さすがのカッパも、力を出す前に馬に引きずられたのでは、手も足もでません。
「と、殿さま、ごかんべんを、私の、私の負けです」
カッパはあやまりましたが、殿さまは答えません。
「・・・・・・」
カッパは、泣きそうな声で叫びました。
「ど、どうかごかんべんを! もう二度と、悪いことはしませんで、馬を止めて下さい」
でも殿さまは、答えません。
「・・・・・・」
とうとうカッパは、大声で泣きながら叫びました。
「どうか、どうか、お願いでございます。おわびのしるしに、水をわき出してみせますので」
「・・・よし」
やっとのことで、殿さまは馬を止めました。
そこはちょうど、望月(もちづき)の畳石(たたみいし)というところでした。
「これ、カッパ。約束通り、もう二度と悪さするなよ」
許されたカッパは、両手をついて殿さまにあやまりました。
「はい。もう二度と悪さはしません。約束は守ります」
このときカッパの手もとから、みるみる清水がわき始めました。
やがてカッパはどこかへ消えましたが、清水は止まることなくわき出しました。
やがてこの水は『畳石の一ぱい水』と呼ばれて、それから長い間、旅行く人々ののどをうるおしたということです。
おしまい
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